花の下、水なき空に

 いつになく巨大な月が中天にかかる頃、糸庵院の御堂は武装した男たちの吐く息と庭先の松明の炎とで、むせかえるような熱気に包まれていた。糸庵院を取り囲む皇軍のざわめきと武具の擦れ合う音が、否応なく緊張感を高めていく。
 翡翠は本尊が祀られている扉の前に座り、穏やかな瞳で広間に並んだ歩狼隊の男たちを見下ろしていた。ゆらゆらと朱く揺れる松明の灯に軍神の峻厳な姿が浮かび上がり、まるで糸庵院の本尊ではなく、翡翠自身を守護しているかのような印象を見る者に与えていた。
「伝令は出たかい?」
 涼やかな翡翠の声が広間の熱を少しだけ下げる。
「はっ。既に包囲網を抜け、方霧殿の隊へ向かっている頃です」
 翡翠の側近く控えていた壮年の男が誇らしげに答えた。
「そう。三怜なら夜明けを待たずに戻ってきてくれるだろうね」
 静かに頷いた翡翠は、決然と顔を上げ、立ち上がる。広間を満たしていた空気が、冷たく張り詰めたそれに一変する。
「皆、今夜が正念場になる。どうにかして三怜が戻ってくるまで持ち堪えるんだ」
 凛とした翡翠の声が、御堂からあふれて庭にまで並び集った男たちを奮い立たせる。糸庵院の御堂を、「応!」という叫びが揺らした。

 空が燃えている。嗅ぎ慣れない火薬の臭いが漂ってくる。さっきまでくっきりと見えていた月は黒煙に隠れ、耳に轟くのは剣戟と銃撃と人々の怒号だ。
 桜の君は微かに目を細めて空を見上げた。いくつもの命が散り、肉体を失った魂魄が行く先を求めて空を彷徨っている。糸桜の細い枝が近付いた魂魄を絡め取り、その魄を喰らう。魄を失った魂はどことも知れぬ輪廻の輪へ還っていく。
 空へと昇っていく幾筋もの魂の輝きに目をこらす。強い輝きを放つ翡翠の魂は見当たらないけれど、それでも焦燥が胸を焦がす。今すぐにでも、彼の元へ走って無事を確かめたい。
 愁恕の父が筆頭を務める長老院は、皇軍の主力をこの糸庵院に送り込んできた。大砲までも持ち出して本気で翡翠をつぶしにかかっている。こうなった以上、皇軍と長老院の貴族たちが生き延びる道は、歩狼隊と芳軍の屍の上にしかない。翡翠の首を取ったところで、歩狼隊が彼らに降ることなどあり得ないからだ。
 引き返すことのできない状況が、皇軍に力を与えている。砲撃に崩れた塀を乗り越えて、若い兵士たちが糸庵院の前庭まで押し寄せる気配がしていた。兵士の質で勝る歩狼隊だが、皇軍の数の力に押され始めている。鐵砲で武装した歩狼隊の主力は、三怜と共に黎京の外だ。翡翠が密かに輸入していた外洋製の大砲で皇軍の砲隊は既に撃ち取られていたが、糸庵院への侵入を許してしまったのは痛かった。彷徨う魂魄の数は、敵も味方も半々といったところだ。
 ああ、でも、そんなことはどうでもいい。
「……翡翠」
 知らず名を呼んでいた。混乱した戦況の中で、翡翠がどこにいるのか、たった一人の気配を読み取ることはできない。胸の奥が捩れるように痛む。明るい月の落とす桜の影が、まとわりつくような闇になって足下から這い上がってくるようで、寒気がした。
「翡翠……」
 身体を食い破って飛び出さんとばかりに心臓が脈を打つ。胸元を押さえても、鼓動は鎮まらない。人の魂魄を捕らえて喰らう枝垂れ桜の細い枝が、己の分け身であるはずなのにひどく恐ろしく感じられる。
 桜は飢えていた。この飢えを満たさなければ、次の春に花を咲かせることもままならないほどに。飢餓の命じるままに、桜は死者の魄を捕らえる。
 けれど今、桜の君を支配している感情は、飢えではなかった。桜と桜の君の魂を分かつほど強い感情が、行かなくては、と、桜の君に命じる。熾火《おきび》のような魂が身体の内で燃え上がる。己の命を喰らい尽くす炎だと知っていても、それをとどめる術はない。
 焦燥に突き動かされて、桜の君は糸桜の庇護の枝からふらりと足を踏み出した。その身体に、細くしなる枝が絡みつく。引き戻され、優美な花の姿とは裏腹にごつごつとした巌《いわお》のような幹に押しつけられる。行ってはならないのだと、それは人ならぬ身である桜の君がしてはならないことなのだと、桜の枝は戒める。
「わかっている……わかっているさ!」
 絡みつく枝を振り払おうともがきながら、桜の君は暗く染まった瞳で空を見上げた。月光に白く輝く花の隙間から、赤黒い戦の色に染まった空が覗く。その空に、星が落ちる。
「翡翠……!」
 魂が引き剥がされるような痛みに、女は叫んだ。

 月は西の空に傾き、戦火の隙間から朧な姿を覗かせていた。糸庵院の中庭は戦のどよめきから切り離され、幽寂で織り上げた布で覆い尽くされたようにしんと静まりかえっている。
 空はまだ燃えていた。糸庵院の神主たちが神仙道の助けたらんと日々整えてきた枯山水に流れるのは、夥しい屍体から流れ出る人血だ。醜く踏み荒らされた玉砂利には、もはや描かれていた見事な流水紋の面影はない。
 大蛇がのたうちながら這っていったような痕がひとすじ、庭園を支配するように咲き誇る桜へと向かっている。瑠璃紺の空に薄紅の滝を浮かび上がらせる、妖艶な枝垂れ桜へと。
 桜の下には白無垢の花嫁衣装を身に着けた女が立っていた。血と死臭に塗《まみ》れた庭の中、女はただ一人真白な姿を月明かりに照らされながら、静かにその足下を見下ろしている。
 その女の足下に、藍鼠の羽織を自らの血で染め上げながら、翡翠は横たわっていた。脇腹から溢れ出す血潮が、桜の下に降り積もった花片を朱く染めている。
 暗い夜空と降るように咲く桜の花しか視界に入っていないはずなのに、翡翠にはそのすべての景色が、まるで夢の中の出来事のように外側から見えていた。
「三怜がますます銃を嫌いになりそうで困るね」
 力なく腕を持ち上げながら、かすれた声で呟く。崩れ落ちるように、女が――桜の君が翡翠の上に屈み込む。
「参ったな……こんなところで、死んでる場合じゃないのに。どうしてこうなっちゃったんだか」
 うそぶいてはみるものの、本当はわかっている。
「化け物」と呼ばれたのだ。幼い頃からずっと、周囲の子どもたちからも、育ての親からさえも、そう呼ばれてきたのに。とうに慣れたはずなのに、それでもその呼び名は幼い頃の鋭い痛みを思い出させた。
 ――黎京から出て行け! 化け物!
 そう叫んだ声は、子どもだった。丸い頬、あどけない顔立ち。まっすぐに、己の信念を信じる瞳。揺らがない敵意。かつての三怜の、武狼野から自分を信じてついて来た部下たちの、戦えば未来が手に入ると信じて疑わない瞳が重なって見えた。
 一瞬だった。自分でも気付けないほどの刹那の迷い。その一瞬の空隙を、銃声が一つ、撃ち抜いた。
「何で、俺は……君になら喰われても良いなんて思ってるんだろう」
 茫洋とした瞳で、桜の君の泣き出しそうな顔を見つめる。
 衝撃に視界が真っ白になって、その後のことはよく覚えていない。気がついたときには、翡翠はここで散り落ちる満開の桜を見上げていた。
 白い女の手が、ためらいながらそっと翡翠の頬に触れた。
「翡翠、教えてはくれぬか」
「何を……かな?」
 冷え切った指先の感覚がなくなっていく。頬に触れる桜の君の感触も、どこか薄皮を一枚隔てたように遠い。
「お主の見た未来を。妾もそれを、垣間見てみたいのじゃ」
「ちゃんと……見えてるわけじゃないよ」
 重い腕をゆっくりと持ち上げて、桜の君の手に触れる。それだけで鈍い痛みが脇腹から全身へ広がった。それでも翡翠は微笑む。自分が笑えば、桜の君も笑ってくれるような気がした。
「ただ俺は、この国の人々が家畜のように扱われたり、他国の文化を押しつけられて……言葉や、この庭を美しいと思う心を忘れてしまうのが、嫌だったんだ……」
 政治や戦を学ぶために渡った外つ国で、他国に支配された人々を見てきた。生まれ育った国を、こんな風に蹂躙されたくはないと思った。守らなければと、思ったのだ。目の前で苦しむ誰かではなく、故郷で翡翠を苦しめてきた誰かを。
 傲慢で身勝手で馬鹿馬鹿しい感情だ。わかっていても止められなかった。
 優しい記憶などほとんどなかったのに、どれほど憎んだかわからないほどだったのに、離れれば離れるほど故郷がいとおしかった。
「……でも、なんでかな。守るためには力が必要で、力を手に入れるためには捨てなくてはならないものもいっぱいあって……守りたいはずなのに、自分で壊さなくちゃいけないものも、進めば進むほど、どんどん……増えて……それでも、俺は……」
 経験を積み、富と人脈を得て戻ってきたとき、翡翠は受け入れられなくてもかまわないと思っていた。どうせ失うものなど何もない。誰が自分を認めなくても、この手でこの国を守ってみせる。そう決めた。覚悟もできていた。
 そのはずなのに。
「この期に及んで、受け入れられたかったなんて……」
 いつの間にか、恐れていた。お前は獲物なのだと、ただの人間に過ぎないのだと言いながら、この存在を受け入れてくれる者を失うことを。その恐怖は、他の人間にとっても同じなのだと気付いてしまった。
「桜は散っても枯れはせぬ」
 桜のひとひらが散り落ちる音すら聞こえそうな静寂に、桜の君の声が染み渡った。微笑むその瞳には、太古の記憶を封じ込めた琥珀にも似た光が揺らめいている。
「文化とやらのことは妾にはよくわからぬが、それがこの土地に根差したものならば、そう簡単に消えはせぬ。お主の見た未来も、きっと消えはしないだろう」
 ふと過ぎった風に、糸桜の枝が一斉にそよいだ。さらさらと枝が鳴り、花片が暖かな吹雪のように散り落ちる。人々の営みを千年も見続けてきた老木の予言に、翡翠は先ほどよりも深く笑んだ。
「慰めるのが上手いね」
「思ったままを言うておるだけじゃ」
「うん。ありがとう……」
 頬に触れる手に、指を絡ませた。幾度も辿ったはずのその柔らかさに、もっと触れておけば良かったと今さら詮無いことを考える。
 桜の君の瞳がふいに翳り、庭の入り口へ向けられた。剣戟と銃声と怒号が微かに聞こえて、また遠ざかった。けれど静寂は戻らない。誰かの荒い息遣いと灼けつくような怒りの感情に、庭園の空気が一気に熱せられたようだった。
 視線だけをわずかに動かして、そちらを見やる。ぼやけた視界に映るのは、鋭い刃のような三怜の立ち姿だ。寄り添っているのは四狼だろう。三怜があの距離を許す存在は限られている。
「翡翠さんに何をしている」
 殺気にぎらつく瞳で、三怜は桜の君を見据えた。その手が刀の柄にかかる。
「答えろっ!」
 叩き付けるような、血を吐くような叫びだった。鯉口を切る音に、ただ一人四狼だけが反応する。
「三怜さん! 違います! 翡翠さんを傷つけたのは彼女ではありません!」
 全身ですがりつくように、四狼は三怜の右手を押しとどめた。
「放せ!」
「嫌です!」
 手負いの獣のような三怜の殺気が、泣き出しそうな四狼の声が、霧散しそうな翡翠の意識を現《うつつ》へ引き戻す。
「……三怜」
 瞳を閉じて呼びかける。
「こちらへ……来てくれないか」
 桜の君の手が頬から離れ、気配が緩やかに遠ざかる。入れ替わるように、三怜と四狼の気配が傍らに駆け寄ってきた。
「翡翠さん、死ぬな」
 瞳を開けば、屈み込んだ三怜と視線がぶつかる。常ならば強い光を宿している三怜の瞳は、出会ってからこの方一度も見たことがないほど弱々しく翳っていた。
「あんたが死んだら、誰がこの国を救えるって言うんだ」
 四狼が崩れ落ちそうな三怜の肩を支えている。
「俺じゃ……俺じゃあんたの代わりにはなれねぇんだぞ!」
 必死に言いつのる三怜は、四狼の存在を忘れてしまっているようだ。
「三怜……いけないよ。そんな……ことを、言っては」
 血の味が上ってきて咳き込んだ。急速に体力を奪われる。
「俺が、迷ったんだ。殺されるんじゃない、殺せなかったから、死ぬだけだ」
 三怜の唇が、そんなことはないと言いたげに震えた。翡翠が力なく伸ばした手を握り返す腕も震えている。まるで三怜の方が、翡翠にすがりついているようだった。
「皇軍も結局手懐けられなかった。至らないところばかりだった……」
 痛みを振り払うように首を横に振る三怜に反論を許す余裕は、翡翠にもない。
「聞くんだ、三怜」
 残った力のすべてを込めて、強く三怜の手を握った。闇に怯える幼子のような目が、翡翠を見つめる。
「俺だって間違えるんだ。俺なんかになろうとするな。そのままの君でいてくれよ」
 手から力が抜けた。三怜が瞳を見開く。
「翡翠さん」
 呼びかける言葉は、ほとんど声になってはいなかった。
「桜。俺の、桜の君」
 風が渦巻き、花片を巻き上げる。地面に貼り付いたように重かった身体が、その風に押し上げられて空に浮かび上がる。三怜と四狼の気配が、よろめくように遠ざかった。飛沫を上げる滝のような、白い桜の枝を背後に微笑む桜の君を見上げる。いつか外つ国で見た、天上から舞い降りる女神の絵のようだと、翡翠は笑う。
「連れて行って。俺は、君のものに、なりたい」
 彼女の方へ伸ばした手が、嘘のように軽かった。

 空に浮かぶ翡翠と桜の鬼を、彼らを取り巻くように舞い踊る桜の花弁を、四狼と三怜は呆然と見上げていた。
「のう、四狼」
 翡翠の手を頬に押し当てて笑う鬼は、酷薄な笑みと裏腹に泣いているようだった。
「愚かなことじゃろう? ひとならぬものが、ひとを愛するなど」
「御桜殿……」
 三怜の肩を支える四狼の手に微かに力がこもる。その感情の流れを辿るように、鬼の瞳が呆然と佇む三怜を捉えた。
 やめろ、と、その唇が呟く。声にはならない。桜の君は目を伏せ、ゆっくりと首を横に振る。
「すまぬな、三怜。翡翠は連れて行くぞ」
 風が吹き付けた。
 視界を覆い尽くすように花片が舞い上がり、渦を巻き、翡翠の亡骸と女の姿を掻き消した。
 三怜が吠える。朧な春の月に消えない呪詛を叩きつけるように、やり場のない激情が空気を震わせる。
 魂を削り取り、切り裂くような、それは半身を奪われた獣の叫びだった。

 翡翠の死に乗じて、反乱軍は黎京へ攻め入った。翡翠を失った歩狼隊も、歩狼隊との戦で消耗した皇軍も、その勢いを止めることはできず、黎京は反乱軍の手に落ちた。黎京を追われた歩狼隊や、囚われの身となった貴族たちがどうなったのか、桜は知らない。
 その戦火に糸桜も焼かれた。半身が焼け落ちた翌年も、その翌年も桜は花をつけたが、糸庵院に出入りする桜守が、もうこの木も終わりかもしれないと嘆いていることも知っていた。
 その通りだと、桜は思う。あと幾度春を迎えられるか、危ぶまれる時期が桜にも来たのだ。それでも、桜はまた花を咲かせた。
 そして幾年《いくとせ》も春は巡り、また桜は花をつける。
 まどろむような日々だった。人の世のざわめきは遠く、もう桜には何も聞こえない。薄膜を隔てたように現実感のない季節だけが、柔らかく桜の表だけを撫でていく。
 あと幾度、この春を迎えられるのか。考えることさえも徐々に稀になっていく。
 夢現《ゆめうつつ》のうちに花は散り、光に満ちた夏が過ぎ、紅葉の季節を超えて厳しい冬が来ても、桜は白昼夢の中にいた。ただ春の夢見るような暖かさだけが、桜に再び花を開かせる。

 ――御桜殿――
 ゆるゆると真っ白な虚無の中へ落ちていくような眠りを覚ましたのは、静かに呼びかける白狼の声だった。
 ――四狼か。久しぶりじゃな――
 半ば夢見心地のまま、桜は応える。
 ――お別れに参りました。武狼野へ帰り、消えてしまう前に――
 桜が長い枝を差し延べるその下に、四狼は白い狼の姿で佇んでいた。
 四狼の傍らに、あの鋭く怜悧な刃物のような三怜の気配はない。桜が数えるのを諦めてしまった春は、いつの間にか人の命が尽きるほど巡っていたのか。それとも戦が彼の命を奪ったのか。
 思いを馳せても、桜の老木はそれを知ろうとは思わない。四狼の声は穏やかな悲しみを湛えている。幸福を知る者の、満ち足りた悲しみ。それだけでわかる。きっと三怜は幸せだった。四狼を幸せにしてやれるほどに。
 わかることはそれだけだ。それだけで十分だ。
 ――あの男の魂を、武狼野に返すのじゃな――
 ――はい。それが私の、最後の役目です――
 穏やかに微笑むように、四狼は尾を揺らした。
 ――そうか。武狼野まで、達者でな――
 ――御桜殿も。どうか穏やかに――
 静かな気配がそう告げて、そっと長い尾を翻す。それが四狼の、黎京から故郷へ向けた最後の旅立ちだった。
 四狼を見送った桜も、再び眠りに落ちていく。もはや二度とは目覚めることもないだろう眠りに。
 ――桜は散っても枯れはせぬ――
 桜の魂が虚空に溶け、消えてなくなってしまっても、それでもこの木は花を咲かせ、種子を実らせ、そしてまた巡る春に桜は咲くのだろう。それを眺め、美しいと微笑む人々の上へと、花の吹雪を降らせるのだろう。
 桜はただ力を抜いて、心地よく暖かな闇に身をゆだねた。小さな種子だった頃のように――かつて人の身を得ていた頃、翡翠にそうやって抱かれたように。
 耳元で翡翠の笑む気配を感じた。桜の君も微笑んで、そっと意識を手放した。

 魂を失った桜の木はなおも美しく咲き誇り、あふれ落ちる滝のような満開の枝を風に揺らす。糸桜の花片は春の風に舞い上がり、青く潤んだ空に波の紋様を描いた。