序章 The future which he saw

「おねがいが、あるのです」
 たどたどしい声が青年を呼び止めた。青年は振り向いて――わずかに目を見開いた。
 このあたりの治安は良いとは言えない。インティリア(内側)の、エヴァーグリーン本部のある一角とはいえ、ここは『地下』だった。その辺の階段を二、三階上がればこの星最高の治安を誇る町がある。けれど『地下』の治安はエクスティリア(外側)のそれと大差ない。
 青年を呼び止めたのは、華奢な体格の少女だった。青みがかった銀髪に、青い瞳の。とても綺麗な。
「お願い?」
「わたしを、とどけてほしいのです」
 青年は苦笑して、頭ひとつ分小さな少女の目線に合わせて腰を曲げた。
「どこへ?」
「とびら、の、むこうへ」
「報酬は期待できるのかな?」
 少女は不安げな表情で首を横に振った。
 青年は困った表情で少女の目を覗き込む。その目に、ふと何かを理解したような光がよぎる。
「珍しい色の髪だね。地毛?」
「……はい……」
 少女の長い髪を一房手にとって尋ねる青年に、少女は戸惑ったようにうなずく。
 青年は優しく、そしてどこか楽しそうに微笑んだ。
「では姫君、不肖この私が、扉の向こう側まで貴女のナイトを務めさせていただきましょう」
 少女は呆然と青年を見上げて、そして微笑んだ。
「ありがとう」