帰り道

 大会決勝戦からの帰り道、高村はずっと叱られた犬みたいにしょげかえっていた。なぐさめる言葉なんて見つからなくて、何より私自身が泣きたいくらい落ち込んでいたから、チームが解散して二人きりになったあとも私たちはずっと無言だった。
 でも、そろそろ何か言わなきゃ。もう分かれ道が来てしまう。本当は二人ともわかっている。これは終わりじゃなくて、次の始まり。しょげるのも落ち込むのも、始まりを始めるための通過儀礼にすぎないんだって。
「高村」
 始まりを始めるために、私はちょっぴり丸まった高村の背中を、思い切ってばしんと叩いた。
「来年こそ勝とう! 私は卒業しちゃうけど、ずっと応援してるから」
「里奈先輩……」
 俯いていた高村が、毅然と顔を上げる。まるでそうするきっかけをずっと待っていたみたいに。
「そう……そっスよね! 来年は、絶対勝つ。優勝する」
 だいぶ空元気っぽかったけど、それでもいつもの高村らしい強気な輝きが瞳に戻ってきたから、私もなんだか安心する。
 その強気な瞳がふっとやさしくかげって、私のことを見下ろした。
「だから……俺のこと、見てて下さいよ」
「あ、たり前でしょ。応援しに行くって、ちゃんと……高村のこと」
 真剣な表情に「優勝したら……」という約束を思い出して動揺しそうになった。なんとか取り繕えてたと思うけど、最近自分のポーカーフェイスにはあまり自信が持てない。
「そう来なくっちゃ。じゃ、俺こっちなんで」
 気付かなかったのか気付かないふりをしてくれたのか。
 私よりよっぽどポーカーフェイスの上手い後輩は、スポーツマンらしいさわやかな笑顔をのこして横断歩道を駆けていく。
「里奈せんぱ〜い!」
 渡りきったところで、高村はこちらをふりかえって大きく手を振った。
「何!?」
 もう、恥ずかしいことしないでよ。抗議を込めて問い返したのに、高村の笑顔はますます晴れやかになった。手をメガホンの形にして、叫ぶ。
「好きだぜ!」
 一瞬呼吸を忘れた私に、高村は大きく右手を振る。
「じゃあ、また明日!」
「あっ、ちょっと、高村!?」
 さっと走り去っていく背中に私は大きくため息を吐く。
「ばかじゃないの……答えくらい聞いていきなさいよ」
 小声で憎まれ口を叩きながら、自分の頬が真っ赤になっていることを自覚する。小さくなっていく高村のシルエットが、なぜか大きく拳を天に突き上げた。
「もー、何やってんだか。ほんっと、ばかなんだから。だいたい約束ちがってるし」
 でも、本当は私も同じことしたい気分。
 明日、会ったら。最初になんて言おう。高村みたいなふいうちはできないけど、何かインパクトのある言葉? ああ、でも、あの笑顔が見られるんだったら、言葉なんてどれでもいいのかも。
 考えながら、私はずっと高村の背中を見送っていた。いつもフィールドに送り出している、頼もしいその背中を。ずっと。