第五話 挿話

 5-4 ルッカ・エイディ情報担当官の帰郷

 僧兵に採用されて一年目、聖騎士団の下に配属されてユリンで過ごした日々は、まるで夢のようだった。
 ヤン・バルヒェット元三等兵――今は光王庁の近くにある居住区の一つでジャガイモ農場を営む両親を手伝っている少年は、畑を守る結界を見回りながらその頃のことを思い出しているところだ。
 僧兵時代の経験は、今はジャガイモを荒神の影響による疫病から守るのに役立っていた。ユリンの町を守る結界は複雑だったけれど、そのメンテナンスを手伝っていれば結界魔術の基礎は身につく。逃げ帰ってきた直後は後悔ばかりしていたけれど、今となってはあの経験も無駄ではなかったとやっと思えるようになってきた。
 思えば、僧兵には最初から向いていなかったのだろう。聖騎士団より一足先にユリンに飛ばされたのも、ヤンが落ちこぼれだったからだ。自分でもわかっていた。回りが歯を食いしばって厳しい訓練に耐えているときに、ヤンはもう無理だと音を上げて、それでは駄目だと叱られれば出来る奴には出来ない奴の気持ちはわからないのだと拗ねてばかりいた。
 そうして飛ばされたユリンで、やっぱりヤンは落ちこぼれだった。上司のラドクリフは中央省庁区に返り咲くことばかり考えていて、ユリンのことは顧みもしない。
 そんな上司の下で先輩たちはやりたい放題だった。自分は左遷されてここにいるのだと自暴自棄になっている者も多かったのだろう。真面目に仕事をしている者もいたけれど、昼間から酒浸りになったり、後輩をいじめることにしか生きがいを感じてないんじゃないかと思えるような者も数人いて、そして印象に残っているのはそちらのタイプばかりだ。訓練の出来が悪いヤンはしょっちゅう使い走りにされていて、もうあの頃から半分は僧兵をやめるつもりになっていたのだと今は思う。ユリン配属が決まったとき、唯一周囲から羨ましがられた美しい青空を眺める心の余裕さえなかった。
 状況が変わったのは、聖騎士のカイがユリンへやって来た頃からだ。表向き真面目に仕事をし始めたラドクリフは、けれどもちろんそれまでに放り出してきた諸々を誤魔化すことは出来なくて、カイの監査報告によってあっさりと更迭されてしまった。
 そこからは何もかもが上手く行き始めたように見えた。左遷されたことに不満があった、けれどそれなりの功績を立ててきた(と、少なくとも彼らは自称していた)先輩たちは中央省庁区に引き上げられ、新しくやってきた聖騎士たちはどうにか採用されたばかりの初年兵をかき集めて乱れきっていた規律を正し、酒浸りになっていた先輩たちはそんな余裕もなかったはずなのにアルコール依存症の治療プログラムを受けさせられることになった。
 魔術や剣術の訓練も時折聖騎士たち自らの指導すら混じる本格的なものになり、綻んでいた結界の補修にも駆り出されて、ヤンはやっと――僧兵に採用されてから初めて、働いている実感を得ることが出来たのだ。
 噂にしか聞いていなかった聖騎士たちは、リサやランティスや後からやって来たフィアは意外と親しみやすいし、カイやフェイルは取っつきにくいけれどちゃんと部下のことを見てくれている感じがするし、レイヴン・クロウやダストは厳しかったけれど理不尽なことは言われたこともされたこともなくて、ヤンはすぐに全員を尊敬するようになった。
 聖騎士団団長ジュリアン・レイのことは言わずもがなだ。誰よりも多忙なその人と直接顔を合わせる機会は多くなかったが、たまに訓練を見てくれたときは端的に適切な助言をしてくれて、それまで出来なかった難しい魔術の制御がそれこそ魔法にかけられたように簡単に出来るようになった。もちろん後で一人で練習するときにはその時に言われて掴んだ感覚がなかなか思い出せなくてまた上手く行かなくなったりするのだが、それでも目に見えて自分が成長していくのを感じられるのは嬉しかった。
 団長は本当は人間じゃないらしい、という噂もあったが、そんな噂が立つのも仕方ないと思う。結界の補修、ユリン内部にのみ通用する規則の見直し、山積していた嘆願書の処理。どれもこれも、担当していた先輩たちが口を揃えてとにかく決定が早くて正確ですごいと噂するレベルだった。
 サーズウィアを呼べるただ一人の英雄。噂に違わない本当に優秀で公平で誇り高い、そんな人物の下で働けるのが嬉しかった。こんなすごい人が光王庁に呼び戻されないわけがない、その時もついていくのだと無邪気に信じていた。
 また様子がおかしくなったのは、中央省庁区から視察団がやって来た頃だった。突然の天魔の侵入。結界に詳しい先輩が、内側から手引きした者がいなければ絶対にあり得ないと言っていた。
 団長は光王庁の誰かに命を狙われているのだと噂が流れたのは、それから間もなくのことだった。さすがに具体的に光王親衛隊の名を挙げる者はいなかったけれど、皆の心の内に中央省庁区への不信感が募っていったことは間違いない。
 そしてその噂が噂では済まないと思い知らされた、無謀な任務の結末。光王庁の命令でユリンから派遣されることになった同期の仲間たちも、二人は帰ってこなかった。そのうちの一人は同郷で一緒に登用試験を受けて、ずっと仲良くしてきた友人だった。
 ユリンに戻ってきた生き残りの一人は尋常な状態ではなく、見舞いに行ったヤンともほとんどまともに会話もできなかった。
 ――裏切られたんだ、裏切られたんだ。
 そう繰り返す声だけが、今も耳の奥に残っている。
 ――ここにいたら殺される。団長だって俺たちを守れはしない。だって俺たちを逃がすために、団長は仲間を殺したんだ。裏切りだ。裏切られたんだ。
 任務の内容は知らされなかったが、同期の仲間がどうやって亡くなったのかは噂で流れてきた。生きて帰ってきた友人が言ったとおりだった。ほかにどうしようもない状況だったのだとわかっていても、そこに立っていたのが自分だったらと思うと怖くて仕方がなかった。
 一晩眠れずに過ごして、ほとんど衝動的に逃げ出すことを決めた。あのタイミングで辞職する理由なんて、周囲にはバレバレだっただろう。それでも、だからこそ誰に言うことも出来なくて、事情を何も知らないフィラという少女に聞いてもらってしまった。ほとんど話したこともなかったのに、何も言わずに聞いてくれた。泣きだしてしまったのに、最後まで黙って側にいてくれた。そのことには今でも感謝している。そのおかげで少し冷静にジュリアン・レイと向かい合うことが出来たから。
 あの後すぐ辞表を渡しに行ったとき、ジュリアン・レイは憔悴しきったような雰囲気だったのに、穏やかに声をかけてくれた。幸せを祈っている、と。浮かべた笑みはいつもよりだいぶ無理矢理に見えたけれど、逃げ出す自分を、ジュリアンのことを恐れる自分を、責める素振りなど一つも見せず送り出してくれた。
 この人が友だちを殺したのだ、なんて思えなかった。誰よりもその死を悼んでいるように見えたから。
「ここでそういう幸せを手に入れるのは難しいからな」
 用事のついでだと言って最寄りの駅まで車で送ってくれたランティスは、その道すがらジュリアンに辞表を渡したときの話を聞いてそう言った。
「ほんとに気にせず幸せになってくれ。まずは帰って、ご両親に元気な顔を見せてやるんだな。しょっちゅう電話してただろ?」
 その言葉の意味を噛みしめることになったのは、故郷の駅に降り立ったときだ。迎えに来た父と母の目に浮かぶ涙を見て、ヤンは泣いた。身も世もないほどに泣いた。
 帰ってきた。帰ってきたんだ。生きて帰ってきたんだ。ただそれだけを思った。逃げ出した情けなさも、友人の死に背中を向けたことも、何もかも、何もかもが遠かった。
 あれからもう九ヶ月になる。十七歳になった。背が少し伸びた。自警団にでも入ろうかと思ったけれど、友人の死を知った両親に必死で止められて家の手伝いをするようになった。光王庁にほど近いこの居住区では、天魔に襲われる危険もほとんどない。見上げた視界に広がる空は陰鬱な色をしているけれど、一面に広がるジャガイモ畑の整然と連なる緑と白い花の畝を見回る毎日は平穏だ。何もかもが色鮮やかで新鮮だったユリンの日常とは全然違う。
 ――夢みたいだ。
 改めてそう思う。あの青空の下で、毎日聖騎士たちと顔を合わせて、結界のメンテナンスという責任のある仕事をして、天魔と戦うための訓練を受けていたなんて。
 こんなことをつらつら考えているのは、中央省庁区に勤めている知り合いがもうすぐ帰省してくるからだった。
 ルッカ・エイディ情報担当官。六つ年上の幼馴染み。居住区で一番頭が良くて、皆に期待されていた。その期待に応えて光王庁のエリートコースに乗ったルッカは、詳しい内容はヤンも知らないけれどかなり機密レベルの高い仕事を担当しているらしい。そんな幼馴染みに、ヤンはどうしても聞きたいことがあった。
 結界の見回りを終えた頃、ポケットに入れてあった携帯端末が震えてメールの着信を告げる。ルッカが到着した、と、ヤンが僧兵として働いている間もこちらで両親を手伝っていた妹からの知らせだった。

「ルッカ兄ちゃん!」
 すぐ近所にあるエイディ一家の家に駆け込んだヤンに、荷物を下ろしたばかりのルッカが片手を挙げる。天魔の襲撃に耐えられるように頑丈に作られた鉄筋コンクリートの建物は、昼間でも少し薄暗い。
「よお久しぶりだなヤン! 元気してたか? 聖騎士にいじめられて戻ってきたって聞いたけど」
 仕事からそのまま列車に飛び乗ってきたのだろう。ルッカは中央省庁区で見たら簡単に人混みに紛れてしまいそうな、無個性なスーツに身を包んでいた。
「ち、違うよ兄ちゃん! 俺……俺、自分で……もう無理だって思って……」
 必死で言い訳しかけて、にやにや笑っているルッカにからかわれたのだと気付く。
「ってそうじゃなくて! 聞きたいことがあったんだ」
「おう何だ?」
 にやにや笑いは保ったまま、微かに視線だけが鋭くなったような気がした。
「ユリンが荒神に襲撃されたって本当か!?」
「あ、ああ……あれな……」
 何だそっちかよ、とでも言いたげにルッカは眉尻を下げる。
「みんな無事だったのか!? ユリンの人たちは!?」
 まるで大事なことではないような反応に、ヤンはもどかしさを感じて詰め寄った。
「ああ……フィア・ルカが消滅《ロスト》したのが唯一の犠牲で……」
「フィアさんが!?」
 さあっと血の気が引いていく心地がする。やっぱり、思った通り一大事だったんだ。僧兵を辞めてしまったヤンのところにはろくな情報は入ってこないけれど、それでも友人から送られてくるメールから僅かに検閲を漏れて入ってくる情報は、何か尋常ではないことが起こっていることを知らせてくれていた。
「そんな……じゃあ、フィラさんは……」
 聞きたかったことが頭にあったせいで、最初に出てきたのはその名前だった。唯一人の家族のはずだ。悲しんでいないはずがない。
「お前、なんでその子のこと知ってるんだ?」
 さっきよりはっきりと鋭い視線で、ルッカがヤンを見据える。
「えっ、それは……」
「……ユリンで会ったのか」
 確認を求める言葉が重々しい。それはヤンが今まで見たことのない、光王庁の情報担当官としてのルッカの姿だった。
「う、うん。ちょっと……話を聞いてもらったことがあって……」
「話?」
 今度はちょっと訝しげだった。ヤンは素早く周囲を見回して、ルッカの家族も誰もいないことを確認する。
「光王庁から視察団が来た時、天魔がユリンに侵入しただろ?」
「ああ、そんなこともあったな」
 他にもっとすごいことでもあったのか、ルッカは深々とため息をついた。
「その時逃げ遅れたフィラさんを誘導する仕事を任されたんだ」
「へえ、すごいじゃねえか」
 厄介払いのためだとばかり思っていたあの任務をそんな風に言われて悪い気はしない。
「まあ、途中でフランシス・フォルシウス様に殴り倒されちゃったらしいんだけど」
「あー……ああー……そりゃ、災難だったな……」
 遠い目をするルッカは、フランシス様がそんなことをするはずがないなんて欠片も思っていないようだ。フィラが何か勘違いしていたのではないかという疑いを、ヤンはその場で投げ捨てた。
「その時少し話して、その後……僧兵を辞めるときに……なんでか、話を聞いてもらって……」
 なぜあの時フィラに話してしまったのか、自分でもよくわからなかった。ただ、聞いてくれそうな気がしたのだ。
「そうか」
 恐らくヤンが僧兵を辞めることになったきっかけも、ルッカは知っているのだろう。それだけの答えで、全てわかっていると受け入れてもらえたような気がした。
「じゃあ、フィラさんにはご恩があるってわけだ」
「え……うん、そうなる、けど」
 どうしてルッカがそこまでフィラという少女にこだわるのかわからなくて、ヤンは思わずその顔をまじまじと見つめる。
「じゃあ、フィラさんの不利になるようなことはしないよな?」
「そりゃもちろんだよ!」
 勢い込んで頷くと、ルッカは「よし」と頷いた。
「じゃあ、フィラさんがあそこにいたことは誰にも言うな」
「え……? なんで……?」
 じゃあ、で何故そうなるのか、ヤンには理屈がさっぱりわからない。
「会った覚えがないってことにしとくんだ」
 念を押すように繰り返してから、ルッカはふいににやりと笑った。
「なんせ光王庁の最重要人物の一人だからな。って噂だけど」
「どういうこと……? じゃあ、やっぱりあの噂は……」
「ユリンの同僚から聞いたのか?」
 にやにや笑いを貼り付けたまま問い返すルッカは、間違いなく『あの噂』が何なのか把握しているようだ。
「うん、その……団長と結婚した、って」
 それが聞きたいことの二つめだった。
「本当なの?」
「ああ、たぶんな」
「たぶん……?」
 思わず呆然とルッカの笑顔を見つめる。ルッカの表情は笑ったままだったが、それはヤンの反応を楽しんでいるだけで冗談で言っているわけではなさそうだった。
「んで、今そのお二人さんはこの世界に青空を取り戻すために旅に出てるって噂だ。ぜんぶ噂だけどな」
 聖騎士団団長ジュリアン・レイが出奔してその後をフランシス・フォルシウスが引き継いだというニュースはこの居住区にだって届いていた。
「なんで……そんな……本当に……?」
 婚約したとか結婚したとかいう噂は聞いているけれど、青空を取り戻す旅について行っているなんて聞いてない。あんなごく普通の少女に見えた子がそんな危険な旅に出るなんてあり得るだろうか?
「さあなあ。お姫様がサーズウィアを呼ぶ鍵を握ってるとかいろいろ噂は流れてるけど。あ、でも結婚はマジだぜ。一時期政略結婚だって噂があったけど、そのうちアレは完全に恋愛結婚だって噂の方が信憑性増してきてて」
 愕然とするヤンを前に、ルッカはべらべらと話し続ける。
「まあ、最終的にジュリアン・レイが出奔した後で実はフィア・ルカでしたってことになって結婚は無効になったんだけど」
「待って、何それ? 何が正しいの? 一緒に旅に出たんじゃないの? フィアさんが消滅《ロスト》したってのは!?」
「知らね」
 混乱するヤンの疑問を、ルッカは一刀のもとに切って捨てた。
「ジュリアン・レイが出奔した後でフィア・ルカも行方をくらませたって言うし、本当に恋愛結婚なんだったら後を追いかけていったってのも納得は行くし、んで結局フィアなのかフィラなのかってのも謎のままなんだけど」
 ルッカはそこで言葉を切り、まるでお手上げだとでも言うように肩をすくめる。
「まあ噂だよ、何もかも。光王庁の上の方が何か隠してるのは間違いないが、噂とこっちで手に入る情報からするとたぶんそのフィラ・ラピズラリって子は何かの陰謀だか政権争いだかに巻き込まれただけだ。とりあえず本当にその子がユリンにいたんだったら、そのことは黙っといた方が良いと思うぜ。噂が真実だろうとそうでなかろうと、光王庁の機密に関係してたなんてことになったら普通には生きていけない」
 ルッカの言葉は難しすぎてよくわからないが、つまり何も言わない方がフィラ・ラピズラリのためには良い、ということなのだろう。結婚したのがどちらだったとしても、ヤンが何も言わなければフィラは平穏な生活に戻れる、ということなのだと思う。それでもどこか腑に落ちない感じはするけれど。
「……何かわかったら教えてよ。俺だって……知りたい」
 一方的に話を聞いてもらっただけの自分が言うのも妙だとは思ったけれど、それがヤンの本心だ。
「おう。何かわかったらな」
 ルッカが軽く請け負って、それでその話は終わりになった。

 それからしばらく近況報告をしあって、久しぶりの会合はお開きになった。ヤンが帰って行った後で、ルッカは小さくため息をつく。
 休暇による帰省、というのは建前で、本当の目的はカルマ襲撃前にユリンを出ていて記憶が修正されていない可能性があるヤンに話を聞くことだった。
「しかし本当にいたのか……じゃあサーズウィアが来るって話は信憑性高いな」
 フィラ・ラピズラリという少女が本当に存在しているのか。実在しているとしたらジュリアン・レイの結婚相手がどちらなのか。もしその相手がフィラの方なのだとしたら、その意味するところは何か。
 ルッカは光王直属の情報局に所属しているが、まだまだ下っ端で知らされていないことも多い。上層部がここ数週間サーズウィアが来ることを前提に動いていることは知っていたが、その根拠があまりにも弱かった。その辺がはっきりしないと自分の今後の身の振り方も考えられないので、独自に調査していたのだ。
 数年前に機密扱いになったサーズウィアを呼ぶのに必要な総魔力量の試算、現光の巫女と言われているアースリーゼが行ったとされる奇跡に関する分析、四ヶ月ほど前にあった魔術実験の失敗による暴走に関する証言。
 ルッカの権限でアクセス出来る情報と独自に集めた情報を照らし合わせるだけでも、ヒントはたくさん得られた。光の巫女や謎の魔術実験に関する記録など、危ない橋は渡ったけれどその甲斐はあったと思う。
「……本当にサーズウィアが来るとすると……」
 魔術に頼っている軍部、最近落ち目の光王親衛隊、ランベール・レイに支配権を奪われつつある光王。どこも安泰ではない。
(狙い目は聖騎士団か……)
 人手が足りているレイ家周辺に潜り込む隙はなさそうだが、聖騎士団ならば未だに人手不足だ。フランシス・フォルシウスがトップに立ったことで敬遠する向きも多い。
(決まりだな)
 今後の目標を定めたルッカはにやりと唇の端をつり上げた。
 今はいないが、リサと親交があったことで聖騎士団の雰囲気はなんとなくわかっている。たぶん、悪くない選択だ。
 中央省庁区に戻ったらさっそく就職活動を始めるかと、ルッカは密かに決意した。