3日
ルーイと遠乗りに出かける。ルーイは羊より馬が好きなので、久しぶりに馬に乗った。やはり乗用羊よりも馬は乗り心地が悪いと感じるのだが、ルーイはそこが良いのだと言う。
遠乗りの途中でリーニ嬢には相変わらず怖がられているようだが大丈夫かと心配された。ルーイに心配されるとろくなことにならないので余計なお世話だと答えておいたが、確かに懸案事項ではある。
5日
一日中見回り。子どもたちが侵入してくることもない平穏な一日。いつも通りくるくるとコマネズミのように働き回るミス・メーメエを見かけた。今日は何か良いことがあったのか鼻歌を歌っていたが、調子は外れていた。ジオの言によると、いつもしっかりしている女性のそういう側面が可愛い、らしい。よくわからないが、感じ方、考え方は人それぞれだということなのだろう。
8日
少し時間が空いたので、ジオに剣術を教える時間をいつもより長めに取ることが出来た。まだまだ体力・技量共に不足しているが、私についたばかりの頃と比べればだいぶ上達している。最近妙なゴシップばかり持ってくるので少々不安に思っていたのだが、決して努力を怠っているわけではないようだ。
11日
休暇を取った。城下町でやはり休日なのだろう城勤めの一団を見かけた。中心にいたミス・メーメエが非常に楽しそうだった。私は馴染みの店で一日中のんびりと紅茶を飲んでいただけだが、彼らは一日かけて城下町の店という店を回ったのだろう。
12日
昨日休んだため、今日は二日分の仕事を片付けねばならなかった。休暇の翌日はいつも憂鬱だ。私以外の人間はどうなのだろうか。昨日休暇だったはずのミス・メーメエはと言えば、いつも通り楽しげにくるくると働き回っていたが……やはり、これくらいのことで音を上げていては一生彼女に敵わないような気がする。
[今後するべきこと]
・積み残した仕事を片付ける。
16日
ルーイが公務の合間に忽然と姿を消した。心配する姫君にいつものことだから案ずる必要はないと説得して探しに出かけた。城下町外れの風見の塔で発見。城を抜け出すときはたいがいそこにいるので探し出すのは容易だが、なぜ今日なのか疑問だ。疲れているのかと尋ねたが、本人は毎日楽しくて疲れなど感じないと笑っていた。「たまに無性に人に心配をかけたくなるんだよ」と言うので姫君が泣きそうな顔で心配していたと伝えると、途端に上機嫌になった。結婚して丸くなったかと思っていたが、やはり奴のサディストぶりは一朝一夕で直るものではないらしい。姫君のこれからの苦労が偲ばれる。
[今後するべきこと]
・姫君の苦労を少しでも軽減できるよう努める。
21日
ミス・メーメエが羊様の背中によじ登っている現場に遭遇してしまった。彼女も凍り付いていたが、私も凍り付いた。人を背中に乗せるように訓練されていない羊様の背中に登るなど、普通の運動神経では到底考えられないことだ。後で考えてみたらルッテラが側にいたから、彼女が羊様を大人しくさせていたのだろうが、それにしても……まったく、肝が冷える。
思わず羊様は乗り物ではないと注意してしまったが……たぶん、必要以上に厳しい口調になってしまった。理不尽に思われたことだろう。ミス・メーメエとの関係改善に努めると決めたのだが、どうも上手く行かない。もっと自制心を鍛えなければ。
22日
どういう経路で話が伝わったのか(おそらく姫君経由だろうが)、ルーイに昨日のことを聞かれた。もうちょっと優しくしなければ駄目だの何だのとものすごく嬉しそうに説教された。ミス・メーメエに優しく接することに異存はないが……どうも、あのように嬉々として説教されるとなかなか素直に聞きづらいものがある。
[今後するべきこと]
・(ルーイの言を聞き入れるのは癪ではあるが)ミス・メーメエに優しく接するよう努力する。
23日
たった二日後だというのに、またしてもミス・メーメエが羊様を捕まえようとしている現場を目撃してしまった。ついまたきつい調子で注意してしまったが、今日のミス・メーメエはくじけなかった。話を聞いてみると姫君が羊様と遊びたがっているので一頭部屋に招待したい、とのこと。
半分くらいは売り言葉に買い言葉だったが、とにかく知らないところで怪我をされるよりはと手伝うことにした。乗用羊としての訓練も受けている気性の穏やかな羊様を見繕って姫君の所へお連れしたところ、非常に喜んでくださったようだ。慣れない土地でルーイの相手をするという難行に取り組んでおられる姫君の楽しみになってくれたのならば、私としても本望だ……が、ミス・メーメエにはもう少し無謀な行動を控えてもらいたいものだ。こうしょっちゅうこのような場面に遭遇していては、こちらの心臓が持たない。
24日
業務は通常通り滞りなく進んだのだが、一日中妙な視線を感じていた。気配を感じてそちらを向いても羊様しか見えないのだが……。今朝は羊様の餌やりを手伝ったので、その匂いが移っているのかもしれない。そうだ、きっとそういうことだったんだろう。そうに違いない。そう思っておこう。そう思っておけば平和だ。
26日
通常通り見回り。特に変わった事柄はなし。平穏な一日。しかしやはり視線を感じる。どうも視線の主はミス・メーメエなのではないかと思えるのだが……いや、まさか、そんなはずはない。
28日
ジオが羊様に憧れて城内に侵入を企てた城下の子どもたちを発見したので、全員を捕まえて説教。なぜ禁止されているのか、羊様を見学するにはどんな準備が必要かなども説明したのだが、ちゃんと伝わったのかどうか今ひとつ自信が持てない。私はどうも説明が下手でいけない。
[今後するべきこと]
・羊様見学ツアー用の説明マニュアル整備(今回のような事態にも対応できるようにしておく)。
・騎士団の弁の立つ者数人を選び出し、いざという時に説明の任に当たれるよう指示を出しておく。
30日
裏庭の納戸の老朽化が進んでいる。城全体を点検した前回の大規模な補修計画から十年が過ぎ、城の修理必要箇所も増えているものと思われる。早急に調査し、補修工事の計画を策定せねば。視線は相変わらず気になるが、今はそれよりも仕事だ。
[今後するべきこと]
・城の修理必要箇所を調査する。
・補修工事の計画を策定する。